四国の職人が心に響く手仕事で仕上げる
オーダーメイド納経帳・御朱印帳「千年帳」

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紙本保存修復士・一宮佳世子インタビュー

オーダーメイド納経帳・御朱印帳「千年帳」の資材調達・表紙制作・製本(和綴じ)を担当している紙本保存修復士・一宮佳世子の文化財に向き合う仕事に対する想い、和綴じ製本の技術や特徴、千年帳の開発・制作の経緯などをインタビューしました。

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千年帳制作チーム

オーダーメイド納経帳・御朱印帳「千年帳」は、それぞれの専門技術を持つ四国の職人が、最高品質の納経帳・御朱印帳を仕上げるために長い期間をかけて試行錯誤し、開発した商品です。
四国内を拠点に活動する様々な分野の専門家が集まって結成された千年帳制作チームのメンバーは、現在の活動分野に関わることになったルーツやストーリーがそれぞれに存在し、活動分野へのこだわりや想いをもって取り組んでいます。
活動状況や千年帳にかける想いなどをぜひ広く知っていただきたく、メンバーが自分の声でお伝えするべく、インタビュー動画を撮影しました。

千年帳制作チーム
千年帳のメイン素材である「土佐手漉和紙」が生み出される高知県の仁淀川にかかる沈下橋で、千年帳制作チームのメンバーを撮影しました。

 

 

紙本保存修復士・一宮佳世子

本記事では、千年帳の資材調達・表紙制作・製本(和綴じ)を担当している紙本修復士・一宮佳世子(いちのみやかよこ)のインタビュー内容をまとめていますので、文化財に向き合う仕事に対する想い、和綴じ製本の技術や特徴、千年帳の開発・制作の経緯などをぜひご一読ください。
インタビューの様子は、以下の動画でも閲覧可能ですので、あわせてご覧ください。

 

 

 

 

「紙本保存修復士」の仕事

私は普段は紙本保存修復士として活動しています。ペーパーコンサバターとも呼ばれ、長い年月が経って傷んでしまったりよごれてしまった書籍や紙製品を修復し保存していく仕事です。
この仕事には、コード・オブ・エシックス(Code of Ethics=倫理規定)という必ず守らなくてはいけない世界共通のルールがあります。その中で特に大事なことが次の4つで、これを必ず守ることを意識して、修復・保存の仕事をしています。

 

1.オリジナルを尊重すること
2.可逆性、安定性のある材料や素材、技法を使って作業をすること
3.記録を残すこと
4.最小限の介入にすること

 

この仕事を行う人にはそれぞれ専門性があり、美術史の専門、化学の専門など様々に得意分野がありますが、私は紙の生産がさかんな高知県で紙の勉強をしたので、その強みを活かせるように心がけています。
常に新しい技術や材料が生まれるので、その時には良いと思っていたモノも時間が経ったら実は違う・良くなかった、ということも結構あるため、新しい情報を入手し、仲間と意見を交換するなど、常に勉強が必要な仕事です。

 

誤解されがちなのですが、この仕事は壊れているモノを切って貼ってただ直すというものではなく、あくまでもオリジナルを尊重し、環境を整えて、治療をするなどして劣化要因を取り除き、寿命を延ばすお手伝いをしています。
埃を払いながら虫などのつけたシミなどを取り除くお掃除や温湿度のコントロールといった環境整備を担うことも多いです。

 

修復というのは、ここで手を入れないともっと寿命が縮むという時にだけ、その目的に応じて行う作業です。
本ならば、閲覧しなければいけないのでその動きに耐えられる最小限の修理、展覧会に飾る絵なら、見る人の鑑賞の妨げにならない程度の修理、シミも完全に漂白剤で抜くとかではなく、多少残っていても用途の妨げにならなければ手荒なことはしない、本当に最後の最後に手を施すという感じです。長く遺されてきた時代感も消してはいけないのです。

生麩糊
修復や製本には主に生麩糊(しょうふのり)という天然原料のでんぷん糊を使います。用途にあわせて、かたさを調整しながら使います。

 

 

 

紙本修復の難しさとやりがい

手を入れる・直すというのは、それまで伝わってきたオリジナルを破壊することにもなります。いくら破れているからと安易に裏打ちをしてしまうと、水も入り、それまで遺っていた柔らかい風合いなどがそこで全部消えてしまうこともあります。すごく怖い作業だったりします。

 

私は版画や美術作品なども直しています。版画に指紋やコーヒーをこぼしたシミがあったとします。
指紋が作家のものだったらそこに価値が出るので、処理や判断の難しいところです。シミが例えば作家と恋人が喧嘩をしているときにこぼして付いたコーヒーのシミとなると、そこに価値が出てくるわけです。
だから、勝手に取り除いてはいけないのです。

 

難しく根気のいる仕事ではあるのですが、修復により寿命が延び、クライアントがすごく喜んでくださるとうれしいですし、国の機関の仕事では歴史の教科書に載っているようなモノに出会え、じかに触れることができるので「うわぁ!」と感動することもあり、楽しさややりがいになっています。

 

 

 

紙本保存修復士・一宮佳世子のルーツと強み

実家が和紙の問屋をしていたもので、初めは「紙を売る」仕事でキャリアをスタートしました。「和紙を売るには紙のことを知らなきゃいけない」と思い高知県に来て、千年帳制作チームの一員である土佐手漉和紙職人の田村寛さん・田村亮二さんとも一緒に「後継者育成プログラム」を受講し、紙の勉強をしました。
作る人ががんばっていることを知ると、次はそれを「売って需要を拡大しないといけない」と思いました。彼らのような技術のある職人さんが生き残っていくために何かをしたいという想いからです。
また、使う人のコトがわかるともっと紙が売れるのではないかとも思いました。土佐手漉和紙の職人さんが作る最上級の良質な和紙を使う人が、芸術家と保存修復家だったので、今度は紙の保存修復の学校に入り学ぶことにしました。

 

私は、良質な紙を使う人の立場と作る人の立場が両方わかるので、間に入るような役割を担うこともあります。
職人が「こんなん作ったよ」と持ってきても、市場に適するものではなかったりして、使えない・使う場面がないということも多いので、紙の需要と供給がうまく合うように作り手に向けて助言しています。
また、使う側からのクレームに対しても、紙保存修復士をしていると、どうしてそうなるかがわかるので、これはあなたの使い方が悪いといった指導ができます。例えば、エッチングの作家さんに「和紙なのでその使い方だと紙は毛羽立ちますよ。その毛羽立ちを防ぐには、刷る前に紙にちゃんと湿りを与えれば防げますから、やり方を少し変えれば使えます。この紙はすごく良いものだから使ってください」といったアドバイスをしたことがあります。保存修復家として、絵画や版画の技法・技術なども一通り習ったので、そういうこともわかります。
紙の特性を知らずに、せっかく職人さんが作ったものを「クレーム」と処理するのは作り手・使い手の双方に良くないことです。使い方を工夫すればいくらでも使える、そういうことを作家さんなどの使い手側に向けても発信しています。

 

ある依頼で、染料を使わないで古代色になるような紙が欲しいと相談されました。原料の三椏(みつまた)は石灰で煮るとわりと赤っぽくなりますが、外で板干しすると太陽の日にさらされて白くなります。室内に干す、または、日にさらす時間の調整によって濃い色の紙になり、自然な色の紙ができるので、そのような工程で職人さんに紙を作ってもらい、販売したこともあります。
また、和紙は匁(もんめ)という紙の重さを基準にした厚さの単位で取引されるので、その単位から外れた紙は販売できず、職人の在庫になってしまいます。紙保存修復士はたくさん色や厚さの紙があったほうがいろんな修復に対応できるので、そのような紙も購入して活用しています。
朝一番のきれいな水で漉いた紙と夕方に漉いた紙では色が変わることもあるので、色を選別して違う色の紙として売る、という方法を考案したこともあります。

 

現在は、高知県を中心に活動している地域文化計画というNPOや、東京都拠点の文化財保存支援機構の活動にも参加していて、文化芸術の振興や文化財保護、このような分野に関わる後継者の育成などにも携わっています。

錐通し_一宮佳世子
手漉き和紙やそれぞれ材料の特性を見極め、本に仕立てていきます。

 

 

 

千年帳の製本にあたって重視したポイント

納経帳・御朱印帳の開発の相談を(株)四国遍路の佐藤さん、高知県立紙産業技術センターの有吉さんから受けたときに、とてもありがたい企画だと思いました。
仲間が作っている紙を取り上げてくださって、昔から伝わってきたモノを残そうという思いにぜひ応えたい、協力させていただきたい、と返事をしました。30年以上も前からの仲間である土佐手漉和紙職人の田村寛さん、田村亮二さんと一緒に関われることがとてもうれしかったです。

 

千年帳の製本では、和綴じの中でも「袋綴じ」という綴じ方を採用しています。和装本は、もともと巻物から始まり、それが折り本になって冊子になってと、時代とともに変化していくのですが、冊子でいうなら2ヶ所穴を開けて綴じる結び綴じとか大和綴じという袋綴じではない綴じ方もあります。
記録によるとこの手法は室町時代に日本に入ってきたもので、その当時と同じような材料を使い、同じ技法で作られている袋綴じの本は、軽量で柔らかいので壊れにくくて丈夫です。現代の本は、ガチっと作ってあるものがほとんどですが、かえって壊れやすかったりします。昔の本は機能的な素晴らしい装丁なので、この魅力を千年帳にも反映しました。

 

千年帳に使われている材料、製法、技法、綴じ方は、室町時代や江戸時代から伝わっているモノとほぼ同じで、国宝などの文化財の修復などにも使われています。博物館などで昔の本がちゃんと遺っているのをご覧になると思いますが、昔のモノは長持ちするということを歴史が証明しているのです。

和綴じ袋綴じ
千年帳は昔の和本の製法を採用し、軽くしなやかで壊れにくいのが特徴です。

 

 

 

千年帳を使う人に伝えたい想い

この千年帳は昔ながらの材料や製法で、保存修復の倫理にもある可逆性ということも追求しています。つまり、いつでも元通りにもどせる、修理できるという方法で作ってあります。もし、表紙が破れてしまったとか、糸が切れてしまったということがあっても、またきれいにやり直しができる作り方になっていますので、長い期間大事に使っていただきたいです。

最低限の取り扱いと保存環境を気にしていただければ、歴史が証明しているように、商品名のごとく1000年もつ、品質・保存性の高い納経帳・御朱印帳ですので、自信をもって皆様のお手元にお届けしています。

 

 

※以下リンクの千年帳制作チームの他のメンバーのインタビュー内容もぜひご覧ください。

 

土佐手漉和紙職人・田村寛インタビュー

 

土佐手漉和紙職人・田村亮二インタビュー

 

染匠・大野篤彦インタビュー

 

書道家・廣瀬和美インタビュー

 

千年帳プロジェクトサポーター・有吉正明インタビュー

 

千年帳トータルデザイナー・得丸成人インタビュー

 

千年帳プロデューサー・佐藤崇裕インタビュー

 

 

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