【御朱印情報】福岡県「光雲神社」の黒田如水のイラストと教えがデザインされた御朱印
福岡県福岡市中央区にある「光雲神社」は、黒田官兵衛(如水)と黒田長政の親子を祀る神社です。黒田如水のイラストと教えがデザインされた特別な御朱印のほか、デザイン性豊かな多種多様な御朱印がいただけることで話題になっています。
オーダーメイド納経帳・御朱印帳「千年帳」の表紙には、伝統的な染色技法「讃岐正藍染」によって染めた生地を採用しています。その歴史や技法、染物屋「染匠吉野屋」の技法復活にかける想いや取り組みをご紹介します。
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日本の伝統的な染色技法でもっとも有名で昔は主流であったのが「藍染(あいぞめ)」です。
一口に藍染といっても、いろいろな染色原料や技法が用いられますが、蓼藍(たであい)の蒅(すくも)を灰汁(あく)のみで染液として仕立て、その後も灰汁、ふすま、貝灰だけで管理した染液で染めたものを「正藍染(しょうあいぞめ)」と称し、伝統的な藍染技法のひとつです。
染料に使うのは蓼藍の葉の部分です。夏に刈り取った葉を乾燥させ、秋にその葉を発酵させる作業が始まり、冬には、あの鮮やかな藍色が生まれるとは想像もつかない、一見腐葉土のような蒅が完成します。また、蓼藍は1年草なので年を越えての保存ができないため、藍作農家は毎年芥子粒のような種をとり続けます。
藍染は、発酵の力、微生物の力を借りて染色する方法です。
藍染で使う染液は蒅からつくられますが、蒅は水に溶けません。色素を引き出し染めるには水に溶かす必要があり、微生物による発酵の力を借りて水溶性に変えます。木灰の灰汁などアルカリ性の水溶液のなかでだけ色素成分が溶け出し、また空気に触れることで酸素と結合して青色を発色する仕組みです。化学的にいうと、酸化と還元の化学反応が利用されています。
染液を作るための器・藍甕(あいがめ)の中で温度を保ち、蒅を発酵させると染料になります。この藍の染液を作ることを「藍を建てる」といい、化学薬品などを一切使わず、蒅の微生物のエサとなる木灰の灰汁だけで建てることを「本建て」といいます。
攪拌や建て方については、細かい点は職人によって異なりますが、温度を保ち、表面に膜がはってきたら染められる状態の合図で、発酵させるのに一般的には10日程度ですが、原料の状態や環境によって状況は変化するので一定にはなりません。
染められる状態になった染液は、アルカリ性を保つために微生物への栄養を日々補給し、発酵を活性化させ、温度を調整し、状態を管理し続ける必要があります。職人は、染液の育ち加減を五感で確かめながら、染色作業を行います。毎日、微生物の世話をして、染液のご機嫌をうかがいながら、染めていくたいへん手間のかかる技法です。
染液に布を浸し、取り出したときの色は茶色っぽい感じです。藍染製品の染め上がりの青色からは想像できないと思います。取り出した布を水で洗うと灰汁が流れ、空気に触れて酸化し、水の中できれいな藍色が現れます。
布を藍染め液に浸しては取り出し、洗い、発色させては乾かし、同様な作業を繰り返して染め重ねていくことで、藍色は段階的に濃くなっていくのです。
正藍染は、いろいろある藍染技法の中でも、特に染液に浸す回数による色の変化が大きいのが特徴です。その繊細な色の差を現す「藍四十八色」という言葉があります。藍白(あいじろ)、瓶覗(かめのぞき)、浅葱(あさぎ)、縹(はなだ)、鐵(てつ)、藍(あい)、搗(かち)、留紺(とめこん)など、藍の色は細かくわかれています。
何回浸すとこの色になるという法則性はなく、染液が生き物で、気温や湿度などの環境にも左右され、また元気が良いときもあれば休ませないといけないときもあり、さらには寿命もあって、やがて染まらなくなるときもくるという、染液のその時々の状態を見極め、染色していく必要があります。
毎日染めても全く同じ色には染まらないのが、正藍染の面白さ・醍醐味・魅力で、職人の腕が試されるところです。
千年帳の表紙のひとつである讃岐正藍染「空と海」の制作を担当する香川県琴平町の染物屋「染匠吉野屋」では、大正時代から昭和時代初期にかけては、藍染を行っていて藍甕もありましたが、時代の流れとニーズの変化で、のり染や染料染めの技法に移行し、藍染はやめてしまいました。
琴平町内にある金刀比羅宮(ことひらぐう)への「こんぴら詣で」が大流行した江戸時代には、門前町に複数の染物屋があった記録が残っており、藍染も盛んに行われていたようですが、現在では町内の染物屋は染匠吉野屋のみとなり、藍染産業はついえてしまっていました。
染匠吉野屋の現在の代表である4代目・大野篤彦さんの代になり、既存の染物の仕事が減少傾向にあり、染物屋の原点に立ち返るのがこれからも伝統産業を盛り上げていくためには重要と考え、藍染の再開にチャレンジすることになりました。
一般的には藍染は色落ちや色移りをしやすいというイメージを持たれていると思いますし、実際にそのような製品もたくさん出回っているのですが、いろいろな藍染の技法を調べ勉強してみると、色落ちや色移りしないしっかりと色が定着する技法にたどり着き、それが正藍染でした。
染匠吉野屋で昔行っていた藍染は正藍染の技法ではなかったようですが、新しく取り組むのであれば、伝統的な技法の良さを活かして、より品質の良い製品をお届けしたいという想いから、正藍染への挑戦が始まりました。
染料の原料となる蓼藍・蒅は、既存の産地から購入してきて染色作業のみを行うのが染物屋としては一般的な方法ですが、大野さんは地元で蓼藍を栽培することから始めました。長い間何代にもわたって琴平町で商売をさせてもらっている染物屋として、地域全体を盛り上げていくために何ができるかを考えると、地域のブランド・特産品を作ることが重要だと思い、そのためには地域のいろいろな人と連携しながら、原料から製品制作、販売までを地域内で一貫して行うことが必要で、そのために原料の栽培は欠かせませんでした。
この想いに共感してくれた町内の若手農家さんが協力してくれて、蓼藍の栽培と蒅作りを開始することができました。ただし、当然のことながら農家さんも蓼藍の栽培と蒅作りの経験はまったくないので、他地域のノウハウも勉強しながら、試行錯誤を続け、染料として使える状態までなんとかたどり着きました。
蓼藍の栽培に挑戦したことで、副産物もありました。
藍の葉や茎を水に浸し、発酵させて、石灰を加えて、水に溶けない藍の成分を分離させて沈殿させ、上澄み液を捨て、泥状の藍が抽出する「沈殿藍(ちんでんあい)」という手法があります。この手法だと固形の染料になるので、藍の活用範囲がとても広がります。蓼藍を地元で栽培したことにより、蓼藍自体の活用方法にもいろいろな可能性を見出すことができています。
例えば、沈殿藍を漆喰に混ぜて壁に塗ると藍色の壁になるという建材用途や、藍の生薬としての作用や抗炎症・抗菌作用を活かして沈殿藍を混ぜた石鹸をつくったり、墨に混ぜて藍色の文字を書けるようにするなどの用途が考えられます。
染物の分野でも、布に沈殿藍を柄状に付着させる、いわゆるプリントの染料としても使える可能性があります。
染液はもちろん正藍染の伝統的な技法の通りで、蒅に自分で作った木灰からとった灰汁と水を加えて作っています。
水に科学的な薬品が入っていると発酵状態に悪い影響があるので、正藍染に取り組むために工房に井戸を掘り、そこからくみ上げた井戸水を使っています。
このようにして作った染液をいくつものタンクに入れて調整・管理し、染色作業を行うタイミングでそのときにベストな状態の染液を使うことで、安定して染められる環境になります。
また、染めて終わりではなく、お客様に実際に使っていただける製品にまで仕上げることも意識しています。
染めた布を自社内で縫製をして衣服や雑貨を仕上げたり、地域のいろいろな事業者さんと連携して、革を藍染して財布などの革製品を仕立てたり、地域の特産品の布を藍染してネクタイを製作するなど、商品としてお客様に届けるところまでに関わることに努めており、このような取り組みをしている染物屋は珍しいと思います。
商品をお客様にしっかり使っていただいて、感想や要望などの声を、次の製作に活かしていくことは、とても大事であると考えています。
伝統技法というものは、ともすれば方法を変えてはいけないと思われがちで、正藍染もこの方法でなければ正藍染ではないという人もいますが、昔の技法の良いところはもちろん継承しながら、絶えず改善や工夫を重ねて、自分なりに考えて伝統に向き合っていくことが、伝統産業の維持やさらなる発展には欠かせないと思っています。
正藍染の染色技法は、たいへん手間がかかり、染液を育て状態を見極める職人の技量も必要になりますが、その分、藍染の特性を存分に発揮し、いろいろな藍色を表現できたり、色落ち色移りしづらいなど、品質が確かな染物を仕上げることができます。
一度は途絶えた香川県での藍染産業を「讃岐正藍染」として復活に挑戦する染匠吉野屋の取り組みにぜひご注目ください。
※千年帳の表紙に採用している讃岐正藍染「空と海」の特徴に関して、以下リンクの記事でご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
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