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静岡県浜松市浜名区にある「蜂前神社」は、女城主として知られる「井伊直虎」ゆかりの神社です。直虎が発行した徳政令を所蔵しており、直虎の花押を象ったスタンプがおされる珍しい御朱印を拝受することができます。
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静岡県浜松市浜名区、浜名湖北東部の古墳や寺社が点在する史跡集積エリアにある「蜂前神社(はちさきじんじゃ)」は、平成29年(2017年)のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で話題になった武将・井伊直虎(いいなおとら)の花押(かおう)が記された唯一の古文書の所蔵元として知られる神社です(古文書の原本は現在は浜松市博物館にて保管されています)。
蜂前神社の歩みは、今から約1700年前に遡ります。古墳時代初期の西暦280年に第15代・応神天皇(おうじんてんのう)の命を受けた八田毛止恵(はったもとえ)という役人が、この地の開墾を目的としてやってきたのが創始のきっかけだと伝わっています。未開の地を切り拓き、人々が豊かに暮らせるようにと願った開拓の歴史が蜂前神社の礎になったと考えられています。
かつては「鳥飼神社(とりかいじんじゃ)」や「羽鳥神社(はとりじんじゃ)」と呼ばれていたといわれていますが、平安時代の延長5年(927年)の記録には「蜂前神社」を記されています。
戦国時代には地元では「はとり神」の愛称で親しまれていたとされ、のちに江戸幕府を開く武将・徳川家康(とくがわいえやす)がこの地を訪れた際に、「はとり神 ひのもと手に入り 浜松の てきは曳馬の 三方原かな」と詠み、必勝を祈願したという伝承ものこっています。
御祭神は、熯速日命(ひはやひのみこと)、甕速日命 (みかはやひのみこと)、武甕槌命(たけみかづちのみこ)で、日本神話において最強の武力を誇る剣の神とされています。約1700年前に未開の地を切り開こうとした開拓者たちは、その強大な力を借りるために三柱を祀ったと考えられます。
荒地を豊かな里へと変えた守護神は困難を切り開く御神徳があるとされ、現代でもそのご利益にあやかるために多くの参拝者が訪れています。



蜂前神社では、基本の御朱印と井伊直虎の花押御朱印の2種類がセットで授与されています。授与所は通常時は無人なので、書き置きタイプの御朱印のみの対応で、2体セットで初穂料は600円です。ただし、第1日曜日や行事が開催される際などは神社に神職さんがいらっしゃって、御朱印帳に直書き対応いただける場合もあります。私は、令和8年(2026年)の元日に初詣で参拝し、神社で御朱印帳を購入した上で、直書き対応していただくことができました。
基本の御朱印は、中央に「蜂前神社」、右に「奉拝」、左に「参拝日付」の墨書き、中央に「神紋」「延喜式内蜂前神社」の朱印がおされるデザインです。井伊直虎の花押御朱印は、右上に「次郎」、中央に花押「直虎」のスタンプ、中央に「井桁」「橘」、左下に「井伊直虎花押」の朱印がおされるデザインです。

「花押」とは、戦国時代に本人が書いたことを証明するために使われた署名(サイン)のことです。当時は現代のハンコや自筆の署名と同じ意味のものですが、この時代は公家や武家の権力者のみが使用する重大な責任が生じるものとして扱われていました。
蜂前神社には、この地域ゆかりの武将・井伊直虎(いいなおとら)の花押が記された唯一の古文書を所蔵しており、古文書に記しされた花押を象ったスタンプがおされる御朱印が授与されています。
井伊直虎は、井伊家第22代当主である井伊直盛(いいなおもり)の一人娘として天文5年(1536年)頃生まれました。後継のいなかった直盛は、親戚にあたる井伊直親(いいなおちか)を婿養子に迎える予定でしたが、直親は今川氏に命を狙われ、信州へと逃亡します。直虎は愛する直親の無事を祈りながら出家し、「次郎法師(じろうほうし)」と名乗りました。御朱印に記されている花押の右上部分に「次郎」は、直虎の法名を表しています。
その後、直親は約10年の時を得て奇跡の生還を果たし、その時には直虎とは別の女性と結婚しており虎松(とらまつ、のちの井伊直政(いいなおまさ)を授かりました。しかし、今川氏から裏切りの疑いをかけられて直親は無念にも殺されてしまいます。直虎の父である井伊直盛は桶狭間の戦いで戦死、さらに直親をも失ったことで、井伊家は存続の危機に陥りました。残されたのはまだ幼い虎松ただ一人で、この窮地を救うために、出家していた次郎法師は井伊直虎と名乗り、虎松の後見人として実質的な女城主となったのです。
直虎がおんな城主として向き合った最大の難局こそが、蜂前神社が所蔵し直虎の花押が記されている「徳政令(とくせいれい)」と関係しています。
今川氏は、直虎が治める地域の村人が借金で苦しんでいることを利用し、借金の取り消しを命じる徳政令を出すように直虎に指図しました。この裏には井伊家の経済基盤を揺るがし、井伊家を崩そうとする今川氏の陰謀がありました。
当時、この地域で強大な勢力を誇った今川氏に背くことは許されないことでしたが、それでも今川氏からの理不尽な命令に対し、直虎はただ従うのではなく、調査を理由に発行を約2年間引き延ばすという驚異的な粘り腰を見せました。
蜂前神社の御朱印に記されている直虎の花押は、強大な権力に知恵一つで立ち向かい、井伊家を存続させた不屈の交渉の証なのです。
そして直虎は、虎松を天正3年(1575年)に徳川家康へ出仕させました。虎松は後に名将・井伊直政へと成長し、徳川四天王として井伊家を再興させます。直虎は天正10年(1582年)に生涯の幕を閉じましたが、蜂前神社があるこの地で守り抜いた井伊家のバトンは江戸幕府を支える大きな力となり、現代にも続く地域の礎になっています。
井伊直虎の花押御朱印におされている二つの紋の朱印も井伊家ゆかりのものです。
井伊直虎の祖先である井伊家初代の井伊共保(いいともやす)は、井戸の傍で生まれたと伝わっており、井戸にちなんで井の文字を旗印の紋として用いるようになりました。また、共保が生まれた井戸のそばに橘の木が生えていたことから、橘をもう一つの家紋と定めました。
共保出生の井戸は現代にも受け継がれていて、現代では歴史好き・武将好きの人の間でちょっとした聖地になっています。
※井伊家ゆかりで共保出生の井戸の近くにある井伊谷宮に関して、以下リンクの記事でご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
【御朱印情報】静岡県「井伊谷宮」の「宗良親王と井伊氏の絆」の物語が込められた御朱印
蜂前神社の御朱印は、古墳時代から続くとされる長い歴史と、戦国時代に井伊家と深くつながって地域で重要な役割を果たしてきたことを表しているといえるでしょう。

蜂前神社の社殿の脇には、この地の開拓の祖である八田毛止恵や子育ての神・知於母令(ちおぼみこと)などを祀った複数の社が静かに鎮座しています。知於母令の御朱印も授与されていますので、特に子どもに関するご利益を求める人は拝受をおすすめします。


蜂前神社の周辺には複数の古墳が点在するなど、史跡が集積するスポットとしても知られています。
この地を語る上で欠かせないのは「三方ヶ原の戦い(みかたがはらのたたかい)」です。戦国時代の元亀3年(1572年)、甲斐国(かいのくに、現在の山梨県)の戦国大名・武田信玄(たけだしんげん)は西上作戦の途上で遠江国(とおとうみ、現在の静岡県西部)へ進軍し、浜松城を拠点にしていた徳川家康と対峙しました。家康は織田信長(おだのぶなが)の援軍とともに三方ヶ原へ出撃し待ち伏せしますが、武田軍の騎馬を中心とした猛攻を受けて大敗し、家康は命からがら浜松城へ逃れます。家康はこの敗北を教訓に、後に軍制改革を実施したり慎重な戦略形成を行うようになったといわれています。
蜂前神社から南へ約2kmの場所に三方原古戦場の碑があり、激戦の歴史が後世に語り継がれています。
さらに、蜂前神社から南へ約15kmの場所にある浜松市博物館もおすすめの立ち寄りスポットです。蜂前神社所蔵の井伊直虎の花押が記された徳政令の原本が保存されており、縄文時代の貝塚や復元住居、浜松地域の歴史・民俗資料などが展示され、先史時代から近現代まで地域文化を学べる施設として親しまれていますので、蜂前神社の参拝とともにぜひ訪れてみてください。
蜂前神社は、古墳時代にルーツがあるとされる古社で、戦国時代にこの地を治めた井伊家と深いつながりがあります。井伊直虎の花押が記された御朱印には、直虎が女城主として奮闘した歴史が刻まれています。史跡・武将好きの人、珍しい御朱印を集めている人に特に参拝をおすすめする神社のひとつです。
ライター:星野暁(ほしのあかつき)
子育てに奮闘する静岡県在住のウェブ小説家。お寺や神社の空気感が好きで各地の寺社を巡っています。境内に満ちている空気や御朱印の紋様に宿る物語、土地の呼吸などを言葉に紡いでいきたいと思っています。
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